私は子供のころからピアノではバッハを多く勉強させられ、高校に合格した時に先生から「お祝い」として頂いたのがリヒター指揮の「マタイ受難曲」のLPディスクだった。合格したのに受難とは、という感じも若干あるにはあったが、こういう音楽を勉強しなさいという心であったのだろうと思う。
その後バッハは大学入試、コンクールのためにしか演奏していなかった。これが現在の私としては悔やまれるところである。もっといろいろな曲を勉強しておけばよかったと思うのだが、それ以上に勉強せねばならないことも多かったのは事実なので仕方がないとも思っている。
さて、標記作品は実は最近になって初めて全曲を通して聴いた。「マタイ」は前述の理由で知っていたのだが、「ヨハネ」を聴いて新鮮に思ったところがある。まず全曲の演奏時間が短いこと(私にとってはありがたい)。そして群衆の合唱がドラマティックに描かれていることである。さらに「すべてが終わった」というイエスの言葉の場面。べートーヴェンのピアノソナタ第31番との関係は最近になって知ったのでなるほどと思った。
私が鑑賞したのはずいぶん前のBS放送を録画したVHSヴィデオである。今後は視聴が難しくなると思われる媒体であり、今見ることができて幸運だったと思っている。
バッハの音楽はやはりいつ聴いても素晴らしい(自分の勉強とは違い鑑賞する場合)。この録画は1970年9月とのことである。若い頃に一度でもこういう演奏を聞いていれば私の音楽観ももっと変わったかもしれないという気がした。そして録画していながら見ていなかった自分にも反省である。
細かいことだが作品中で気が付いたこと。
・ 合唱で「Weg, weg mit dem, kreuzig ihn!」と歌われるところを映像では「殺せ、十字架につけろ!」としているのだが、ドイツ語辞書を見るとどうも釈然としない。「weg」は「とっとと失せろ」という訳は確認できる。念のために岩波文庫『新約聖書 福音書(塚本虎二訳)』を参照すると該当箇所は「片付けろ、片付けろ、それを十字架につけろ」であり、これなら分かる。この本はネストレのギリシャ語原文によったとのこと。
・ アルトのアリア「Es ist vollbracht!」のところ、中間部で手持ちの楽譜(1863 Breitkopf
& Härtel)では「Alla breve」と指示されていること。この意味は何か? 新バッハ全集では「Vivace」で、これならわかる。
なお、現代ではYoutubeでこの曲は視聴できるようである。
https://www.youtube.com/watch?v=tPQgHScLK8o
良い時代になったものだが、夜遅い時間を待って録画していた頃が変に懐かしく思い出されるこのごろである。
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